脳計測科学

脳波の解読

体と心の異変は脳に教えてもらおう
膨大な脳信号から不調のサインだけをキャッチ、解読へ


吉村奈津江先生

東京工業大学 科学技術創成研究院(工学院・情報通信系)

先生のフィールドはこの作品から

マトリックス(映画)

ラリー・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー 監督

現実世界の人間の頭とコンピュータを接続すると、仮想現実の世界に入り込むことができる、という有名なSF映画です。20年前は完全なSFでしたが、今では実現性を感じられる内容です。脳の情報を解読することの倫理的な問題を扱っていて、研究者・技術者として倫理観を持って研究を進めていくことも考えさせられます。20世紀最後の年の映画ですが、今見ても新鮮な発見があります。

世界を変える研究はこれ!

膨大な脳信号から不調のサインだけをキャッチ、解読へ

脳の情報処理は知り尽くせていない

私たちが見たり聞いたり意識している情報は脳が処理している情報の氷山の一角に過ぎず、脳の中では一生を通して絶えることなく膨大な情報を処理しています。

脳研究が著しく発展した現在でも脳内の情報処理を知り尽くせてはいませんが、私たちの脳はきっと私たちよりも自分の身体や心のことを知っているはず!と私は思っています。そこで、自分の身体や心の異変を脳から教えてもらうことを目的として研究をしています。

頭皮からの信号を解読中

ただ、脳の膨大な信号を解読することもまた別の難題です。脳の情報は脳内の神経細胞間で伝達されますが、数千百億個もある全ての神経細胞にセンサをつけることはできません。

その一方で脳の外側、頭皮から計測すると、全ての神経細胞の信号が混在しているので、何が何だかわからない情報です。そのため、特に海外では脳内へのセンサ埋め込みを推奨する動きもありますが、私は頭皮から計測した信号をどうにか解読しようとしています。

知りたい信号の特徴を機械学習で見つける

そこで使うのが機械学習という手法です。現在私たちの日常生活にも使われる人工知能も機械学習の1つです。

コンピュータは多数のデータに共通する情報を見つけ出すのが得意なので、その力を使って頭皮の計測信号から知りたい情報の特徴を見つけます。それができれば、私たちの身体の老化や心の不調の兆候をいち早く見つけ出すことができ、病気になる前の段階で対処して誰もが心身ともに健康な生活を過ごせる人生に役立つと期待しています。

吉村先生が脳波と筋電(筋肉の活動信号を皮膚から記録するもの)の実験に参加しているところ。頭に脳波を計測するためのセンサを128個、腕に筋電図を計測するためのセンサを96個つけています。共同研究先のカリフォルニア大学サンディエゴ校にて撮影。

先生のフィールド[人とインタラクション] 平成29年度採択課題ではこんな研究テーマも動いている!
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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脳波計測器はまだ高額な装置ですが、最近は安価な装置も市販されるようになってきました。将来的には脳波も、体温や血圧と同じように家庭での健康管理に使える指標にできると思っています。

老化やうつ病など現代社会が抱える問題において、心身の異常の兆候を自覚する前にできる限り早く見つけ、重症化する前に対処することができれば、皆が心身ともに健康で生涯自活できる環境をサポートできると思っています。

きっかけ

◆テーマとこう出会った

頭皮から計測される信号は脳波と呼ばれますが、脳波を使って脳内の細かい情報を解読するのは難しいと考えられてきました。しかしそれまでは、体のどこの部位を動かそうとしているかというレベルしかわからなかったものを、筋肉の活動の違いを解読することに成功したこともあり、脳波の可能性を広げたいと思いました。

このように脳波から人間の意志を読み出してコンピュータやロボットなどを動かす技術はブレイン・コンピュータ・インタフェースと呼ばれていて、手や足が不自由となってしまった人の役に立つ技術の確立を目的として主に研究されていますが、私はこれを一般の健常者にも役立つものにしたいと思い、今回のテーマを設定しました。

先生の分野を学ぶには
吉村奈津江先生 の研究・研究室を見てみよう

小池・吉村研究室HP

ラボの学生数名と研究会(最新のEEG/MEG研究と電流源推定法の現在地)に参加したときの、吉村先生による講演
中高生におススメ

偉大な数学者たち

岩田義一(ちくま学芸文庫)

古代から近世に至るおよそ2000年の間に輩出された偉大な数学者たちの人生と業績が記されています。ガリレオやニュートンのように数学に興味のない人でも知っている名前から、高校数学までの公式に出てくるような名前、理系の大学で初めて出てくる名前など、歴史に名を残した数学者たちの様々な人生を垣間見ることができ、自由に生きることを肯定してくれる本です。


われはロボット

アイザック・アシモフ(ハヤカワ文庫SF)

人間の形をしたAIロボット(ヒューマノイドロボット)が完全に人間の世界に浸透した世界を描いた本であり、映画化もされています。人間とロボットがどこまで共存すべきか、ロボットが感情を持ち得るか、ロボットが人間を支配する危険性があるのかを、問いかける内容です。これからロボットがますます進歩していく世界を担う人たちに読んでおいてほしい本です。