合成化学

触媒設計

電気を触媒にする!今までなかった省エネの化学反応を目指して


アルブレヒト建先生

九州大学 総合理工学府 総合理工学専攻/先導物質化学研究所

先生のフィールドはこの本から

炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす

佐藤健太郎 (新潮選書)

有機化学は、高校までの授業ではあまり出てこない上に、暗記科目のイメージが強いと思いますが、有機化合物は多様性があり、生物の体からプラスチックや構造材、医薬品まで我々の身近に存在しています。この本では人類と有機化合物の関わりについて様々な例を紹介し、有機化合物をめぐって歴史が動いていたかもしれない事例も紹介しています。

最新の研究にも触れているので、炭素を中心とする有機化学について、その多様性とそれ故に研究する上では無限の可能性があるということを実感してもらえたらと思います。

世界を変える研究はこれ!

電気を触媒にする!今までなかった省エネの化学反応を目指して

「自分だけ」が研究の醍醐味

研究をする時に私が一番ワクワクするのは、新しいことを思いついたり、発見して、自分しか知らないとか自分が最先端にいると思える時です。実際に調べてみるとそうではない時もありますが、人がまだやっていないことや、見ていないことをやれるのが研究の醍醐味だと思います。

分子軌道が電気で歪むのを見て、新しい研究を着想

私は2019年の1月から九州大学に異動し、新しい研究室を立ち上げて、「電気」を触媒にする新しい研究をスタートさせました。

以前はデンドリマーと呼ばれる樹状高分子を使った研究をしていて、ダイオード(整流素子)を単一の分子(10億分の1メートル)で実現しようという「単一分子ダイオード」の研究も行っていたのですが、その時に新しい研究を思いつきました。

分子の反応性は原子軌道が合わさった分子軌道というものに支配されていますが、それが電気の力で歪んでいたのです。分子軌道が電気の力で歪められるのなら、電気の力を触媒にして化学反応を制御できるに違いないと閃きました。

金属の触媒を使わないメリット

触媒というのは自身が変化せずに反応を加速させるものだということは教科書に出てきますが、普通は酵素や金属など化学物質です。触媒を電気で代替できれば触媒を加えたり取り除く必要もないし、これまでの触媒ではできなかった新しい反応を低エネルギーで進行させることができるかもしれません。

現在はまだ原理実証の段階ですが、これまでの研究を糸口に全く違う研究を思いついた時のワクワクを実験がうまくいった時のワクワクにするべく、日々頑張っています。

開発した溶かす溶媒によって発光色の変わる材料の発光時の写真
分子に電界をかける時に使うナノメートルオーダーしか電極間隔のない電極を作製するのに使う回路パターンの転写されたシリコンウェハー(回路は金で出来ていて黒っぽい所が基板のシリコンウェハー)

先生のフィールド[反応制御] 平成 30 年度採択課題ではこんな研究テーマも動いている
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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化学産業は我々の生活には不可欠ですが、大きなエネルギーを消費しています。効率的で省エネルギーな化学品の合成手法の開発はエネルギー消費を減らして持続可能性を増し、温暖化ガスの排出を減らすことにも貢献できます。

きっかけ&学生時代
◆テーマとこう出会った

科学者として常に新しいことやオリジナルの研究をしたいと日々考えています。また、同じ研究をしていると新鮮さがなくなり飽きてくる性格なので、新しいテーマを常に探し、温めています。分野の異なる研究は予算、設備、ノウハウがなくてできないことも多いですが、今回のテーマは、大学を異動して新しい研究室を立ち上げることになってちょうどいいタイミングだったのでやってみようと思い、現在挑戦しています。

◆大学院時代

リンダウ・ノーベル賞受賞者会議という、数百人の学生や若手研究者と数十人のノーベル賞受賞者が一緒に過ごすイベントに参加しました。その時に印象的だったのは、全てのノーベル賞受賞者がそれぞれに自分のスタイルを持っていて、成功するための特定のやり方があるわけではないということでした。自分の思ったようにやればよいというように後押しされました。

中高生の皆さんも自分に合った、やり続けられるスタイルを探すのがよいと思います。勉強以外の趣味、部活、遊びは何をやってもいいですし、やらなくても自由だと思います。

◆出身高校は?

慶應義塾湘南藤沢高等部

先生の分野を学ぶには
アルブレヒト建先生 の研究・研究室を見てみよう

アルブレヒト研究室

共に教育にあたっている岡田研と合同で撮った集合写真
先生の学部・学科で学ぼう

九州大学総合理工学府は、基本的に学部組織がなく、大学院生のみが所属しています。新規物質を合成してその性質を調べて、有機EL、電池、液晶、半導体などのデバイスへと展開する「材料化学」に強みがあります。しかし、それだけではなく電気回路や情報科学など幅広い研究者が集まっており、学生も様々な学部から入学してくるため多様性があることも大きな特徴です。

中高生におススメ

残像に口紅を

筒井康隆(中公文庫)

物語が進むにつれて50音が一つずつ消えていって、その音が含まれているモノも消えていく実験的な小説。50音が消えていくのにちゃんと物語として成立している時点ですごいです。筒井先生は常に新しい領域へのチャレンジを続けており、研究者として見習うところも多く、面白い本が多いので、ぜひ読んでほしいです。


夏への扉

ロバート・A・ハインライン (ハヤカワ文庫SF) 

タイムトラベルもののSF小説の一つで内容はもちろん面白いのですが、主人公が楽しそうに没頭して研究している姿に研究者として憧れますし、共感できます。1956年の古い作品ですが、今でも色あせていないと思います。


三国志

北方謙三(ハルキ文庫)

三国志はいくつかの作家のバージョンを読みましたが、一番熱く、一人一人の登場人物が丁寧に書かれていると思います。気に入ったら、『楊家将』や『水滸伝』など、他の北方謙三著の歴史小説にも手を伸ばしてみては。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

化学。実験は好きだが数学は相変わらず苦手だと思うので。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

ドイツ。自身のルーツの一つなので。

Q3.熱中したゲームは?

『Age of EmpiresⅡ』。ネット対戦もできますが、友達の家に集まって対戦していました。

Q4.大学時代の部活・サークルは?

バックパッキングクラブ。主に山登りや旅行をするサークルです。

Q5.研究以外で楽しいことは?

読書。読む冊数はかなり減ってしまっていますが、SFや時代小説が好きです。