政治学

政治への信頼

避難要請や自粛要請に従うのは、政治への信頼なのか


中條美和先生

津田塾大学 総合政策学部 総合政策学科

出会いの一冊

選挙(映画)

想田和弘(監督)

政治の世界とはまったく関係のなかった会社員が、突然、市議会議員補欠選挙に出馬する、その過程を追ったドキュメンタリー映画です。2005年の話ですが、現在でも状況は大きく変わっていません。

政党を中心とする日本の政治の構造、政党組織の実際、地方選挙に首相が登場するという地方と国政の関係、日本の政治における男女の役割、選挙活動における候補者の行動1つ1つの意味と効果といったものが描かれています。気負いなく鑑賞できますが、鑑賞後には民主主義とは何かということを考えさせられます。

こんな研究で世界を変えよう!

避難要請や自粛要請に従うのは、政治への信頼なのか

自粛や災害避難の要請に従う人、従わない人

新型コロナウイルス感染症が感染拡大した2020年4月、安倍首相は緊急事態宣言を発出、人との接触8割減を国民に要請しました。人々は接触を8割減らしたでしょうか?

実際には、人出が8割減った地域もあれば、6割程度の減少にとどまった地域もありました。医療従事者等を除き、同じ条件なのに外出を自粛した人、自粛しなかった人の違いは何でしょうか?

どのような人が政府の要請に従い、どのような人が従わないのか?また、政府が要請するから自粛するのか、それとも自らの考えで自粛したのでしょうか?

同じような状況が、2011年3月の福島第一原子力発電所事故のときにありました。放射性物質放出という事態で、首都圏から動かなかった人、一時的に避難した人がいました。この、首都圏から動いた人と動いた人の違いも、上記の自粛か否かという行動選択と似ています。

政策によって自分が犠牲になるとき、人は政府を信じる

政治学では、人々は政府の業績を評価するとき政府を信頼する、という政治的信頼のメカニズムが知られています。一方で、人々は政策によって自分が犠牲になるときに政府を信頼する、という研究もあります。

有事における政治的信頼を分析

上記2例の有事における人々の行動は、政府に対する信頼の結果でしょうか。それとも逆に、人々は痛みのある行動の結果、自らの行動と整合する政府方針を信頼するのでしょうか。

本研究は、社会調査の分析によってこの点を明らかにする試みです。政治的信頼のメカニズムを明らかにすることで、持続的な民主主義のコツがつかめると思いませんか。

日常の研究風景。左に写っているのは聴導犬の次郎です。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

◆持続する民主主義

政治学には、専門家である政治家・官僚に多くを委ねるエリート民主主義か、議題の多くを主権者たる国民が決める参加民主主義か、という議論があります。効率性を求めるか、代表性を求めるかという議論でもあります。

例えば、戦時や新型コロナウイルス感染症の拡大時は、民主主義の丁寧な手続きは非効率という意見が増えます。平時においても有事においても、どこまで政府を信頼し、どこまで政府方針に異議を唱えるかを明らかにすることは、より良い民主主義の運営への貢献となるでしょう。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「行動選択が政治的信頼に与える影響-2011年東日本大震災後の首都圏住民の行動」

詳しくはこちら

注目の研究者や研究の大学へ行こう!
どこで学べる?
先生の授業では
◆「実証政治理論」の授業では

投票に行く人もいれば行かない人もいるー有権者の様々な行動とその理由に関して、数理モデルを通して理解し、データを用いて実証します。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
留学していたアメリカのTexas A&M Universityで、Professor Kellstedtとの一枚。
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1)官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(2)マスコミ(放送、新聞、出版、広告)

(3)コンサルタント・学術系研究所

◆主な職種

(1)一般・営業事務

(2)総務

(3)商品企画、マーケティング(調査)

◆学んだことはどう生きる?

卒業後に出身地とは全く関係のない地域選出の代議士秘書公募に応募し、代議士秘書として1年ほど働き、地元に戻り市議会議員となった卒業生がいます。実際の政治の世界に身を置くようになっても、有権者と政治家の関係や行動のメカニズムといった理論的な学びにより、冷静に判断・行動していると思います。

先生の学部・学科は?

政治学、特にPolitical Scienceを標榜する大学は、Scienceを強調します。つまり、政治学でも数学が必須であり、統計を使いデータ分析を行います。

津田塾大学総合政策学部では、伝統的な強みである英語教育に加え、データサイエンス教育に力を入れています。社会の課題に対し、背景やメカニズムを数理的に理解・実証し、解決へのヒントを見出していきます。英語、データサイエンス、そして課題解決能力は、学生たちにとって大きな財産となるでしょう。

2020年度は主にZoomを利用して授業を行っています。写真は「実証政治理論」の講義。 Jiroは次郎(聴導犬)のアカウントです。
中高生におすすめ

いちばんくわしい 魚のおろし方と料理

島津修(成美堂出版)

与えられたものをいかに無駄なく、合理的に、最高の状態でいただくかについての本です。この本を使いこなせたら、自己満足度の上昇のみならず、家族にも喜ばれます。


天文年鑑

天文年鑑編集委員会(誠文堂新光社)

毎年出ています。天体観測のおともです。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

天文学。中学・高校時代は天文部だったので、天文学で東北大学へ行くこともちらっと考えました。ゆったりと研究したいです。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

モーツァルトかヴェルディだと思います。オペラが好きなので。モーツァルトの『魔笛』がお気に入りです。

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『第三の男』(1949)。これは映画でないと表現できないと思いました。

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

脳性麻痺の方の介護。週1回、学部から院生時代含めて10年ほど通いました。このアルバイトで得た知識や技術は大きいです。

Q5.研究以外で楽しいことは?

魚をさばくこと。アナゴも鱧もタコも自分でさばきます。