経営学

心的資産

顧客のハートを動かす工夫が、企業の新たな資産価値になる


髙橋潔先生

立命館大学 総合心理学部 総合心理学科(人間科学研究科 人間科学専攻)

出会いの一冊

ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則

バーバラ・フレドリクソン、監修:植木理恵、訳:高橋由紀子(日本実業出版社)

ポジティブ心理学の導入書です。悲しみや落ち込みなどのネガティブな感情は、我々を圧倒してしまいがちですが、反対に、喜びや高揚感などのポジティブな感情が束になってかかれば、ネガティブを押さえることできることを示しています。こころがへこんでいる人におススメ。

こんな研究で世界を変えよう!

顧客のハートを動かす工夫が、企業の新たな資産価値になる

「うれしい」「たのしい」がビジネスの世界

欲しかった洋服が安く買えてハッピー! 温泉でのんびりできて、こころも身体もリフレッシュ!!これは私たちの「こころ」の動きです。

「こころ」を扱ってきた心理学では、失恋して悲しかったり、勉強が進まなくて不安になったり、面接で緊張したりという気持ちがへこんでくるほうに、いつも目が行っていました。

一方、アップルや東京ディズニーランドのように、お客様にいい気分をお届けし、「うれしい」や「楽しい」や「スゴイ」といった、「こころ」が上向きになる商品やサービスをいつも考えているのが「ビジネス(経営)」の世界です。

企業の資産はお金や土地、商品だけではない

会社が持っているいろいろな財産を、「資産(アセット)」という言葉で表します。たいていは、お金や土地、お店、商品など、実際に数量や金額で数えられるものを指しています。

加えて、他社にマネされないように特許を取る、かっこいいデザインやご当地ブランドを作ることなども資産となります。頭を使ってお金を生み出すので、「知的資産」と呼んでいます。

お金中心の世界で、お金で買えない価値を

しかし、人間は頭だけでできているわけではありません。マインド(頭)ではなく、ハート(こころ)を動かすこと、顧客をハッピーな気分にさせたり、感動を与えたりするような工夫を、会社の資産として考えていくのが良いのではないでしょうか。

お金中心のビジネスの世界で、お金で買えない価値を生み出すために、「こころ」をキーワードにして、「心的資産」という新しい価値について研究しています。

学生を引率した海外企業視察の風景
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SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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情報化社会が我々の生活を大きく変えています。ネット上に溢れる大量の情報を整理するために、人工知能(AI)は欠かせませんが、AIによって仕事が奪われるのではないかと、不安に感じている人も多いのです。

一方で、こころに響く商品・サービスや、こころが触れ合う職場のあり方などについては、情報化の波に飲まれて、忘れ去られてしまいました。「心的資産」の蓄積を通して、人にやさしい経済活動を目指すことができます。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「心的資産の機能探求と知的資産マネジメントに関する研究」

詳しくはこちら

どこで学べる?
先生の授業では
◆学生に折にふれて話すこと

心理学に漠然とした興味を持って大学に入ってきた学生は、社会に出て働くことについての具体的イメージがわかないようです。そこで、実際に新入社員が会社で働く姿や、職場での実体験を話題にして、心理学の産業社会への応用を考えてもらいます。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
心的資産が社会に広がるカギは、スマホにあり
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先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1)コンサルタント・学術系研究所

(2)小売(百貨店、スーパー、コンビニ、小売店等)

◆主な職種

(1)人事・労務・研修、その他人事系専門職

(2)一般・営業事務

(3)営業、営業企画、事業統括

◆学んだことはどう生きる?

心理系学部を出ると就職が難しいと思われがちですが、産業・組織心理学にはあてはまりません。企業の人事部や研修部、大学のキャリアセンター、人材情報会社や人材教育会社などで、専門性を生かせるチャンスが多くなります。心理アセスメントを活用して大学生の採用を担当したり、キャリアの相談をしたり、社員の能力とスキルとモチベーションをアップさせるために研修を企画したり、様々な場面でキャリアを展開できます。

先生の学部・学科は?

心理系学部として、全国で最大規模の教員と学生がいます。心理系学部に典型的な臨床心理学だけでなく、認知心理学、発達心理学、社会心理学、司法心理学はもとより、産業・組織心理学まで、幅広い領域の心理学を学ぶことができます。国立大学では筑波大学が、私立大学としては立教大学と同志社大学が、入試併願先として挙げられます。経済・経営と接点のある心理学を学べる数少ない大学です。

中高生におすすめ

20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義

ティナ・シーリグ、訳:高遠裕子(CCCメディアハウス)

創造的なものの考え方をレッスンするために最適です。新しい活動を始めたり、起業を考える時に大切なのは、お金ではなく、アイデアの出し方です。皆で協力してアイデアを出し合っていけば、ダンスのようにリズムが生まれ、自然とすばらしいアイデアにまとまってくることがあります。社会にインパクトを与えることを考えたい人には必読の書でしょう。


<パワーポーズ>が最高の自分を創る

エイミー・カディ、訳:石垣賀子(ハヤカワ・ノンフィクション)

なにごとにも自信が持てない人、周りから評価されているのに引っ込み思案になってしまう人はいませんか。自信たっぷりなポーズ(パワーポーズ)を繰り返し見せることで、自信のある態度や行動が、本物の自分の姿となっていきます。演技をするように、ポジティブな行動から自分の態度を変容させる仕組みを知ることができます。


フラガール(映画)

李相日(監督)

昭和40年代の福島県いわき市で、炭坑の閉山にともない「常磐ハワイアンセンター」が建設されました。地域の娘をダンサーとして育成していくドタバタを描いた感動コメディです。活気を失っていくいわき市のために、フラダンスという誰も知らないショーを通して、一生懸命に努力する若い田舎女性たち。そのポジティブな行動や態度が、ともすれば暗くなりがちな世相を吹き飛ばし、仲間やコミュニティとのこころのつながりが、組織の新しい価値を生みだすことがわかります。