国際関係論

米中関係

「自由主義」「保護主義」逆転時代の米中関係


伊藤剛先生

明治大学 政治経済学部 政治学科(政治経済学研究科 政治学専攻)

出会いの一冊

ファクトフルネス(FACTFULNESS)

ハンス・ロスリングほか、上杉周作訳(日経BP)

冷戦が終わってから30年、21世紀に入ってから20年、リーマン・ショックから10年、国際政治は大きく変容しました。今や世界全体のGDP総和を75億の人口で割れば、一人あたりの所得は1万ドルを超えていて、先進国対途上国の構図は、色あせてしまいました。しかし、「貧困」はなくなってしまったのでしょうか。この本には、我々の常識を覆す数字と議論が散りばめられています。

こんな研究で世界を変えよう!

「自由主義」「保護主義」逆転時代の米中関係

かつての世界では、関税が国家収入の中心だった

日本が江戸時代末期、欧米諸国と通商条約を結んだときに「関税自主権がなかった」という話は小学校で習います。ただ、この深い意味を知るのは、大分大きくなってからのことでしょう。

まず、今でこそ所得税・法人税は国家収入の中心ですが、100年ちょっと前まで世界の趨勢は関税こそが主要な財源でした。広く薄く国民全体から税を徴収するより、関所を国家が勝手に設けて、国境線を通過する人々に荷物の量に合わせた通行料を要求するほうが簡単です。しかし、通行料が高すぎると自由な往来を妨げ、ビジネスのチャンスを失います。よって、長期的には、関税は徐々に税の主役から脇役となってきました。

戦後低関税化の流れはトランプ大統領で崩壊

次に、この関税を操作してブロック経済圏を作り、その結果第二次世界大戦を招いてしまった反省に基づき、第二次世界大戦以降の歴史は、関税をできる限り低くすることが至上命題とされました。アメリカが関税貿易一般協定を主導し、世界貿易機関を設立したのも、それが理由です。

しかし、ドナルド・トランプが米国大統領になったことによって、これが崩れ始めました。自国の製品に自信があれば、関税などなくとも商品は売れます。つまり、トランプ大統領が掲げる「自国第一主義」は、実はアメリカ経済の国際競争力が次第に弱くなっていることを表しているのです。

隙をついて、中国が国際社会にアピール

そこに間髪入れず、「中国は自由貿易を牽引していく」と国際社会にアピールしたのが、中国の習近平国家主席でした。ここでは、中国が本当に国際ルールに則った自由貿易を行っているかどうかという事実よりも、アメリカが自国のことにしか興味がないと宣伝して、中国の評判を国際社会にアピールすることに意義があるのです。

アメリカの「自由主義」と、中国の「保護主義」とが本当に逆転しているのか、その現実と主張合戦をめぐる二国間関係を検証するのが私の研究です。日本から見ると、アメリカの経済規模は日本の4倍、中国のそれは3倍です(冷戦が終わったとき、前者は1.8倍に迫り、後者は5分の1位でした。30年でこのような状態ですから、これを読む高校生たちが大人になる頃、世界はさらに異なる鳥瞰図となっていることでしょう。)つまり、日本は自分より図体の大きい国同士に挟まれていますが、彼らがその図体をどのように友好的に、または敵対的に使う意思があるかを見定める必要があります。2020年に入って話題となった新型コロナウイルスでも、その起源、対処方法、その後の経済政策等をめぐって、米中間で激しいやり取りが今まさに展開されています。

仕事柄、海外出張は多くなります。これは、ヤンゴンにあるミャンマー国際関係研究所を訪ねた際に、現地の研究者や外交官と一緒に撮ったものです。最近クーデターが発生した関係上、彼らはどうしているのかと案じています。
仕事柄、海外出張は多くなります。これは、ヤンゴンにあるミャンマー国際関係研究所を訪ねた際に、現地の研究者や外交官と一緒に撮ったものです。最近クーデターが発生した関係上、彼らはどうしているのかと案じています。
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「「自由主義」・「保護主義」逆転時代の米中関係-米中戦略経済対話に焦点を当てて」

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インドネシア大学が国際交流の一環として、私のゼミ学生20名を2週間ほど招いてくれたときのもの。彼らは国際化においても大胆です。
インドネシア大学が国際交流の一環として、私のゼミ学生20名を2週間ほど招いてくれたときのもの。彼らは国際化においても大胆です。
中高生におすすめ

二〇二五年 米中逆転

渡辺恒雄(PHP研究所)

アメリカと中国との関係についての本は、センセーショナルな話題を取り上げたものが多いが、本書は両国間の関係を歴史的に概観した良書です。20世紀になって台頭して来たアメリカにとって、中国と日本とを適度にバランスさせることが最も得策でした。本書は、アメリカと中国が協調と対立と交互に繰り返してきたことが述べられています。


アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序

森聡・川島真編著(東京大学出版会

今から10年ほど前に中国のGDPは日本を追い越し、今やその経済規模は日本の3倍、もう少しでアメリカに迫るほどになりました。中国は「中華民族の偉大なる復興」を掲げ、他方アメリカは「Make American Great Again」をトランプ大統領は唱え、双方ともに過去の栄光を取り戻さんと、競争時代に入りました。この本は、政治、経済、テクノロジー、サイバーと異なる分野における米中関係と同時に、欧州・豪州・韓国から米中関係がどう見えるかも考察しています。


戦争論

カール・フォン・クラウゼヴィッツ(中公文庫)

最後に、国際関係の古典を一冊。この分野の古典と言えば、大体20世紀以降のものか、古代ヨーロッパを取り上げるものが多いですが、あえて近代のヨーロッパ時代のものを取り上げます。

この『戦争論』は、タイトルの戦争だけを論じたものではありません。19世紀初め、プロイセン王国の将校であった著者が、当時のヨーロッパ国際政治を概観し、「戦争は政治の延長である」ことの意義や、戦争に勝利するには「国民からの支持」が肝要であることを論じたものです。新型コロナウイルスのような危機に際してよく「強い政府」が待望されますが、強靭さは一部の人に委ねるものでなく、国民一人一人が作っているものだと、200年前の古典は教えています。