AIがわたしたちの社会の様々な分野・領域に広がっています。農業もその一分野です。例えば、農作物の様子を、カメラやセンサで常に見守り、AIが成長や品質を分析してくれる。そんなスマート農業の技術を開発しています。
例えば、温室メロンの等級判定AIの研究開発に成功しました。高級果実であるメロンは、美味しさだけではなく、見た目の良さも求められますが、その判定には熟練生産者が目視だけで行うため、人によるばらつきや時間がかかることが課題でした。その判定を画像認識技術で可能にしたのです。
また、トマトは適度な水分ストレス(水が適度に少ない方がいい)で、高糖度のトマトができますが、その水の管理には職人技が必要でした。そこで、環境データや草姿画像などから水分を制御するAIシステムを構築し、その結果、品質の高いトマトを安定して生産することに成功しました。
他にも、ワイン用ブドウの生育判定や生育量の自動推定といった成果を挙げています。農業従事者が減りつつあるなかで、これらのスマート農業により、持続可能な一次産業への貢献が期待されています。
AIが学習しにくい農業分野
実は農作物は、工業製品などと異なり、同じ品種でも栽培条件や地域・季節によって形や大きさがまちまちなため、AIが学習するのが難しい分野です。AIが学習するデータと実際のデータに差異があったり、データに欠損やノイズがあるのです。
そのため、最近では、画像・音・環境データなど、さまざまな種類のデータを統合して分析する「マルチモーダルAI」や、足りないデータをAIで“生み出す”「生成データ拡張」の技術も研究しています。
こうした技術をもとに、私たちの研究室では、一次産業のみならず、防災やヘルスケアなどの分野も視野にいれ、地域の企業や自治体とも連携して、スマートコミュニティーの実現に寄与したいと考えています。
メロンハウスにて
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→情報・通信、電機メーカー・通信キャリア、Webサービスなど
- ●主な職種は→ネットワークエンジニア、研究開発、システムエンジニア、AIエンジニア
分野はどう活かされる?
研究室で切磋琢磨してきた知識や技術を活かし、次世代を担う情報通信技術やネットワークシステム、IoTやAIを用いた新サービス創出に関する業務に従事している卒業生が多い。
情報ネットワークの分野でも、機械学習や深層学習の活用が注目されています。様々な課題に対して、解決するための方法は多岐に渡り、学問の境界もあいまいになってきています。情報ネットワーク分野の研究成果を活かし、物理的な事実を定量的に示す膨大な「データ」を集め、それらに目的に応じた処理を施すことで質の高い「情報」として扱えるようにし、機械学習や深層学習などのAIを活用することで価値のある「知識」を見い出せれば、新産業を創造するための「知恵」を創出できます。例えば、当研究室では本研究成果の一部を活用することで、トマトの高糖度栽培を支援するAIの研究開発に世界に先駆けて成功しました。みなさんも、これまでの既成概念にとらわれず、斬新な発想で新たな世界を創造していってください。
静岡大学情報学部では、コンピュータネットワーク、オペレーティングシステム、データベース、アルゴリズムとデータ構造、機械学習、確率統計といった様々な知識や技術をベースに、実社会において講義で勉強した内容がどのように関係するかまで、実験・演習系科目を通して実体験するカリキュラムを整備しています。中でも、Webシステムをゼロから構築し、これまでの知識とネット上の最新情報を駆使して性能をどこまで最大化させられるかグループで競う実験はやりごたえがあると思います。
技術革新の早い情報化社会に追従していけるような広い視野と好奇心を持って、情報ネットワーク分野をさらなるステージへと飛躍していける人材育成に努めています。
研究室のメンバー
興味がわいたら~先生おすすめ本
人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの
松尾豊
将棋や囲碁、画像認識、自動運転など、知的情報処理に関する技術革新が目覚ましいが、人工知能が人間を超えられる可能性について、高校生にも読みやすくまとめられている。特に、昨今話題の「ディープラーニング」の特徴など、人工知能ができること、これからできるようになりそうなことがわかる。人工知能の飛躍のためには、多種多様なモバイル・センサデータの集約、効率的な処理基盤の実現など「情報ネットワーク」領域のアプローチも重要な役割を担う。細分化された学問領域にとらわれず、他領域へ展開することや、逆に他領域の発想を導入するなど、「情報ネットワーク」領域へ新たな飛躍を与えられる可能性が感じられる。 (角川EPUB選書)

