土木環境システム

有明海の干潟の再生を!ヘドロを分解する浄化剤の開発


渡辺亮一 先生

福岡大学 工学部 社会デザイン工学科/工学研究科 建設工学専攻

どんなことを研究していますか?

有明海は福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県にまたがった九州最大の湾です。この有明海の干潟において、二枚貝をはじめとした様々な魚介類の不漁が発生し、大きな関心を集めています。この不漁の原因はまだ明らかになっておらず、速やかな干潟回復に向けた技術開発が必要とされています。アサリを中心とした二枚貝の水質浄化機能は高く、二枚貝類の回復こそが有明海再生に向け重要だからです。

私は、有明海の二枚貝が生息できなくなった原因は堆積したヘドロと考え、これを分解させる浄化剤である、フルボ酸鉄シリカ資材を開発しました。これを用いた干潟の再生を、熊本県長洲町の干潟で実証中です。この研究が進展すると、有明海で減少しているアサリ貝の漁獲量を増やすことにつながります。最終的には昔のような豊かな有明海の再生をめざしています。

都市型水害や水不足を解消する、「雨水利用社会」をめざす

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もう一つの取り組んでいるのは、都市域で雨水を活用する技術の開発です。ゲリラ豪雨に伴う都市型水害を解決すると同時に、都市内の水資源を発掘していく実証研究を進めています。その目玉は、2012年に新築した私自身の自宅を、雨水活用住宅として実験していることで、運用開始後、8年が経過します。生活用水として、1軒で42トンの雨水が貯留可能です。42トンは4人家族2か月分の水道水量に匹敵します。

この研究が進むと、都市型水害に対する対策が個人住宅を含めた多くの箇所で可能になり、渇水に対するリスクも大幅に軽減できるでしょう。将来、みんなが豊かに暮らせる“雨水利用社会”をめざしています。

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有明海の干潟で、生物調査を行っています。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→公務員、コンサルタント
  • ●主な職種は→技術系公務員、設計コンサルタント、調査
  • ●業務の特徴は→社会インフラの維持管理・環境修復・環境創造
分野はどう活かされる?

技術系公務員として就職した学生は、具体的な仕事として、都市計画を立案したり、河川改修工事を計画立案、渇水対策・浸水対策・ハザードマップの作成など都市住民に対する様々な安心安全に係わるサービスを行っています。コンサルタントに就職した学生は、河川改修工事、渇水対策・浸水対策・ハザードマップの作成などを具体的に進めて行きます。

先生から、ひとこと

環境問題を本質的に解決していくための解決策を見つけ出すためには、広い視野でものごとを捉え、なぜ、問題が発生しているかを詳しく知る必要があります。この知るプロセスでは、これまでに得られている知識を用いながら、自分で問題点を整理して行く能力が求められています。つまり環境を知るための知識、すなわち物理・化学・生物・地学・生態・景観・文化・歴史という様々な領域の知識を横断的に組み合わせながら柔軟に思考を進めていくことが必要です。

先生の学部・学科はどんなとこ

福岡大学は、9学部31学科、大学院10研究科34専攻が、七隈キャンパス周辺に集中して配置されており、自分の考え方と違う意見を持った同世代の学生と触れ合いながら、様々なことを学ぶことができる総合大学です。

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大学近くの河川の定期清掃活動やゴミ観測を大学生たちと長年行ってきました。

先生の研究に挑戦しよう

研究テーマの参考に、昨年のゼミ生が取り組んだテーマの一部を紹介します。「有明海再生に向けたフルボ酸鉄シリカによる浄化効果の実証」、「大規模渇水時における雨水活用住宅の有効性の検討」、「都市域に残されたため池の機能の検証」、「都市化の影響が都市内での水害に及ぼす影響予測」、「雨水を貯留する人工芝サッカー場の開発」、「都市河川において発生する川ゴミの組成調査」などです。

興味がわいたら~先生おすすめ本

森が消えれば海も死ぬ 陸と海を結ぶ生態学

松永勝彦

環境問題を解決するためには、物質の循環を考える必要があり、一見全く関係がないようなところに解決策がある。例えばこの本では、東北の太平洋側で牡蠣養殖をしている漁師たちが、なぜ森に木を植えるのかを詳しく述べている。「土木環境システム」分野は、江戸時代のことわざ「風が吹けば桶屋がもうかる」の図式さながら、様々な環境問題においてなぜそうなったかを綿密に解析し、関係性がないようなことの中から、関係性を見つけ出す。そして、環境問題の解決策を導き出すことが必要とされている。 (ブルーバックス)


ブラタモリ

タモリが街を歩き、街の歴史を紐解く。古地図から地形に潜む謎を解き明かす過程が解決する能力を育てる。 (NHK)


川と国土の危機 水害と社会

高橋裕

雨水活用の第一人者である高橋裕先生(東京大学名誉教授)が、今後の日本における水災害の危険性をわかりやすく解説。なぜ、都市域における雨水活用が必要なのかがわかる。 (岩波新書)


首都水没

土屋信行

筆者は、元東京都の土木担当者。日本の首都、東京の水災害に対する脆さと、それに対して行政が対策を後回しにしていることに警鐘を鳴らす。筆者によれば、危ない箇所の1つが東京駅。他にも都内の危険地区を挙げ、対策を述べている。 (文春新書)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。