素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理

銀河系のガンマ線を観測し、未知の超高エネルギー現象に迫る


日比野欣也 先生

神奈川大学 工学部 応用物理学科

どんなことを研究していますか?

2011年、アメリカの宇宙物理学者は、遠くの超新星を観測することによって、宇宙が加速膨張していることを発見しました。これまでも、宇宙が時代ごとに膨張しているとは言われていましたが、観測によって、それを初めて実証したのです。2016年には、米国で重力波望遠鏡LIGOを用いて、2つのブラックホールの合体によって発せられた重力波の検出に成功しました。重力波は、100年前にアインシュタインによって予言されていた、時空のゆがみが伝搬する波動現象です。これまで間接的な証拠は見つかっていましたが、重力波が直接検出されたのは、今回が初めてです。宇宙を観測することで、宇宙の謎は一つずつ解けていきます。

地球に降り注ぐ宇宙線には、様々な波長の光や粒子があります。オーロラは太陽からやってきた宇宙線が、大気分子と衝突して発光している現象です。粒子線天文学は一般の人にはあまりなじみがないかもしれませんが、光や電波ではなく、宇宙線を通して見る天文学です。私が特に追求しているテーマは「超高エネルギー宇宙ガンマ線の研究」です。主に我々の銀河系内の極端にエネルギーの高いガンマ線を観測することにより、非常に活動的な天体や領域を調べ、その発生のメカニズムを解明します。

雷も実はガンマ線を放射している

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もう一つのテーマは、雷の研究です。実は雷雲や落雷がガンマ線を放射していることが、徐々にわかり始めてきています。この雷ガンマ線が発生するメカニズムの研究は、宇宙での高エネルギー現象を理解するための身近な現象であるということだけでなく、自然災害から身を守る防雷システムの構築に役立つと考えられます。

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チベット宇宙線空気シャワー実験全景(2000年当時)

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→情報サービス・調査業、サービス業、製造業
  • ●主な職種は→システムエンジニア、技術者
分野はどう活かされる?

異なる専門を結びつけて多様な知識をまとめ上げる総合的な技術力と、コミュニケーション能力を身につけているため、様々な分野で活躍しています。

先生から、ひとこと

宇宙から飛来する原子核や素粒子を捕まえて、銀河系宇宙を研究しています。私たちの宇宙はまだまだ謎に満ちており、未知の発見があなたを待っています。観測装置の制作からデータ解析まで、意欲があれば誰でもできます。一緒に謎解きしましょう。

先生の学部・学科はどんなとこ

工学部応用物理学科では、物理の基礎をしっかり学びつつ、最先端の科学技術を自由に使いこなせる企業人や先生、研究者を育てることを目指しています。1年生のうちからデータサイエンスを学べるカリキュラムがあり、学年が進むと「宇宙観測コース」や「ナノサイエンスコース」など、自分の興味に合わせて専門的な分野を選べるようになっています。

そして、学びの集大成として4年生では卒業研究に取り組みます。私は「宇宙粒子天文学」を専門にしている研究室を担当していて、宇宙に興味のある学生たちはここで、最先端の宇宙科学に触れながら、自分の関心に沿ったテーマ(本格的な研究から身近な疑問まで)を自由にチャレンジしてもらっています。

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1990年に日中共同研究としてチベット高原(標高4,300m)で始めたチベット宇宙線空気シャワー実験の当時の建設メンバー。左が日比野先生

先生の研究に挑戦しよう

環境放射線の測定、μ粒子の寿命の測定、雷・スプライトの光学観測などが考えられますが、難しいようでしたら、『地球の変動はどこまで宇宙を解明できるか~太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来』を読むことを薦めます。この本を読むことで、地球の気候変動を考えるためには、その地球を取り巻く宇宙空間、特に太陽からの影響も排除できないということに気づいて欲しいです。地球も宇宙の一部であることを理解できる、面白い科学書です。

興味がわいたら~先生おすすめ本

地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか 太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来

宮原ひろ子

著者は太陽物理学、宇宙線物理学、宇宙気候学が専門。この本では、太陽活動に伴う太陽圏磁場の変動と銀河宇宙線の強度の関係が、地球の気候変動に影響を与える可能性を示唆する。地球の気候変動を考えるためには、その地球を取り巻く宇宙空間、特に太陽からの影響も排除できないということに気づき、地球も宇宙の一部であることを理解できる面白い科学書だ。 (DOJIN選書)


宇宙が始まる前には何があったのか?

ローレンス・クラウス

宇宙が始まる前には何があったか? 古典的理論では物質もエネルギーもない。つまり真空だが、現代の量子論的宇宙論では、真空は仮想粒子の対生成と対消滅が常に発生しており、決してエネルギーゼロ空間ではない。この真空のエネルギーがビッグバン時に開放され、今の宇宙を創った。この本の著者は、宇宙から生命、人類までの起源を探る「起源プロジェクト」を作った米国の宇宙物理学者。彼は、「宇宙の真空のエネルギーは非常に小さいがまだゼロではない」という仮説を提出し、そのエネルギーがまだ宇宙を膨張させると説く。宇宙の加速膨張から宇宙の未来について考えることができる。NHK Eテレで放送の『宇宙白熱教室』テキストとも言うべき一冊。 (青木薫:訳/文春文庫)


これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義

ウォルター・ルーウィン

X線宇宙物理学が専門のマサチューセッツ工科大学の教授による、文字通り体を張った数々の実験を交えた物理学の名講義が本になった。エネルギー保存の法則を伝えるのに、教室に上からつるした鉄球を離し、反対側に設置されているガラスを粉々に打ち砕いてみせる。著者の熱意がひしひしと伝わって来る読み物で、物理学を楽しく体験的に勉強することができる。 (東江一紀:訳/文藝春秋)


サイエンス入門1

リチャード・A.ムラー

著者はカリフォルニア大学バークレー校の物理学教授。科学的な判断に必須の知識を初学者向けに解説する。核・エネルギー・放射能・地球温暖化等の現代社会のリアルな課題を真正面からとりあげ、その原理から応用技術・問題点・将来性までを説く。原発の問題や地球温暖化の問題で、利権に絡んだ学者や業界団体、マスコミや政治家に騙されてしまう問題点を挙げる一方、原子力だけ『リスクゼロ』が求められるが、どの技術もリスクが伴うことを理解すべきと指摘する。基礎的な物理学の知識があれば社会のさまざまな問題が解決できることを知ることできる。NHK Eテレ『バークレー白熱教室』で放送された著者の講義録。続編の第2巻も出ている。 (二階堂行彦:訳/楽工社)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。