知的財産(知財)とは「価値のある情報」のことです。新たに生み出された技術やアイデア、デザイン、蓄積された技術上または営業上の情報やノウハウは、それ自体で価値があります。ロゴマークや商品の名前なども、長年の使用によって信用やブランドイメージといった価値を生み出します。
例えば、車にはメーカー各社のロゴが付されており、そこにトヨタ自動車のロゴがあれば、この車は品質が良く壊れにくいといったブランドイメージが需要者の中に湧いてきます。ですが、トヨタとは全く関係ない会社がそのロゴを使ってブランドイメージにただ乗りして商売し、しかも売っていたものがろくでもない商品であれば、トヨタのブランドイメージは大きく棄損し、本来得られていた利益も得られなくなってしまいます。
だから企業は、新たに生み出された技術やアイデア、デザインが他社に使われないように、また、蓄積された技術上または営業上の情報やノウハウが不正に他社に知られないような手立てを講じなければなりません。具体的には、特許権、意匠権、商標権といった権利を取得して、新たに生み出された技術やアイデア、デザイン、ロゴを守り、企業として付加価値創造(儲け)の最大化を目指していきます。
「守りの知財」から「攻めの知財」への転換
私は、経営に役立てられる知財活用のあり方について研究しています。授業でも知的財産権という科目を担当しており、学生は研究で必要となる知財に関する基礎知識を付けることができます。
もともと知財に関する研究は、特許法、意匠法や商標法などの法的解釈から始まっており、知財をどのように経営に役立てて付加価値創造の最大化を実現していくか、すなわちビジネスと知的財産の関係を探求する研究はあまりなされていません。実業界は現在でも、特許は技術を模倣する企業を排除するために取得する「守りの知財」であり、協業や経営革新に役立てる「攻めの知財」への転換にはなかなか至っていません。企業が知財を活用するようになって今まで以上に儲けられるようになれば、このような研究は大変意義があるものだと思っています。
また、知財をビジネスに役立てられる能力を有する人材も不足しています。知的財産権の授業では、知的財産管理技能検定3級のテキストを使って学生たちに教えています。学生たちは検定試験を受験し合格すると、国家資格である知的財産管理技能士となることができます。この資格は企業において知的財産を適切に管理・活用する能力を証明するもので、私もこの資格を最近取得しました。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→製造、サービス、ITなど
- ●主な職種は→生産技術、営業、SEなど
当学科の教育科目は、経営者育成、ものづくり技術経営、経理・会計、企画・営業、ITといった5つの科目群に分けられていて、学生は自分の将来のキャリアを見据え、どのような科目を選択すれば良いのかを考えながら単位を取得していきます。我々教員は、例えば、「生産管理がわかる営業」、「ものづくりがわかる会計士」、「経理・会計がわかるIT技術者」、「エンジニアリングがわかるマーケター」といったように、学際的知識を有する人材を輩出することを目標としています。
セミナー指導の様子
興味がわいたら~先生おすすめ本
それってパクリじゃないですか? 新米知的財産部員のお仕事
奥乃桜子
はじめて知的財産を学ぶ学生は実務での知財管理・活用がどのようになされているかわからないので、授業では時々2023年に放映されたTVドラマ、『それってパクリじゃないですか?』を見てもらい、それがどのようなものなのか、イメージを掴んでもらいます。ドラマでは「月夜野ドリンク株式会社」という架空の飲料会社において特許、意匠、商標の管理・活用において、どのような問題が起き、どのように解決するのかがドラマ仕立てで楽しく見られるため、学生はこれらに関して早く理解できるようです。なお、このドラマは書籍がもとになっているので、書籍もおすすめです。 (集英社オレンジ文庫)

